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AI時代のIT部門の役割再定義 ー 技術を理解し、ビジネス価値を生み出す「コーディネーター」へ

  • 執筆者の写真: Mitsuko Ann Honda
    Mitsuko Ann Honda
  • 6月4日
  • 読了時間: 5分

これまでの社会やビジネスは、人が理解できる範囲で分割し、デザイン・構築されてきました。会社の事業領域、部門、組織構造、業務プロセス、システムの設計――それらは全て、人間が把握し、管理できる範囲に留めるための「分割の知恵」によって成り立っていました。特に情報システムは、業務と連携する形で分掌からサブシステムまでを「人が理解できる単位」に分割し、部門間で責任を持てる形で管理してきた歴史があります。データベースの設計、アプリケーションのロジック、システム間のインタフェース――その全てが、人間の限られた認知能力に合わせ、段階的に積み上げられてきたのです。

 

しかし、AIの登場によって、この前提は大きく揺らぎ始めています。AIは、人間の想像を超えた膨大な情報を処理し、複雑な関係性やパターンを見出し、私たちが思いもよらない洞察をもたらします。人間の能力で制限されてきた「ビジネスの概念空間」は、AIによって一気に拡張されつつあります。もはや、人間が全ての論理を理解しながらビジネスを構築する時代は終わりつつあるのかもしれません。

 

とはいえ、ビジネスは「人」で成り立っているので、AIが示す結果をビジネスに活かし、価値を生み出すのは人間の行動結果です。AIが生成するアウトプットは、あくまで「素材」であり、それを解釈し、現実の事業活動で利益を導く力は、人間にしか持ち得ないものです。これからのIT・業務部門に求められるのは、AIをどのように活用し、どこを任せ、どこを人間が担うかを見極め、調整する「コーディネーター」としての能力です。

 

例えば、ECプラットフォームにおける商品レコメンドエンジンでは、AIが購入履歴や閲覧履歴から最適な商品提案を行います。しかし、ブラックボックス化されたAIのロジックが、必ずしもビジネス戦略や販売戦略と一致するとは限りません。特に、季節性のある商品や在庫処分品の販売促進、期間限定キャンペーンの優先表示といった戦略は、AIの自動判断だけでは十分に反映できない場合があります。こうしたケースでは、BIツールによる分析結果から判断を行い、SaaS等の管理画面から「この商品カテゴリを優先表示する」「特定の条件を満たす場合は推奨しない」といった人間の行動を反映します。

 

また、金融業界では、AIによる与信審査やリスク評価が普及しつつありますが、そこにはガイドライン解釈や社会的倫理の観点が考慮されていない場合があります。例えば、特定の年齢層や職業層を過剰にリスクとして扱う傾向がある場合、AIモデルの出力を「そのまま受け取る」のではなく、アルゴリズムの閾値調整や学習データの補正を行う必要があります。これには、AIモデルの背後にある構造やデータ分布を理解し、どこに問題が潜んでいるかを見抜けるエンジニアの力が必要不可欠です。

 

さらに、製造業の品質管理領域では、AIが画像処理によって製品の外観検査を行う例が増えており、表面の傷や色ムラ、形状の微細な歪みなどをAIが自動で検出するケースがあります。実際の製品ラインでは「この程度の傷は許容範囲」「この光沢の差は合格」といった現場特有の暗黙知や業界慣習があり、これらをAIのモデルに反映させ収益的に合理的な判断を行うには、閾値設定やアルゴリズムを現場の状況に合わせて微調整しなければなりません。こうした作業は、単にツールを操作するだけでは不十分で、AIツールの背後にあるアルゴリズムの癖やパラメータの意味を理解し、ビジネス要件と照らし合わせる能力が必要です。

 

このように、AI時代において「人間がやるべき仕事」の役割は少しずつ、そしてある時点から大きく変化すると考えます。これからのエキスパートITエンジニアに求められるのは、下記と考えます。

 

  • ノーコード、GUIで作られた、表面の業務・UI操作から、背後のデータ構造や処理ロジックを理解・推測し、構造を想像する力

  •  ビジネスの意図や業務フローを把握し、技術と業務の両面から「どこをどう変えるべきか」を想像し判断できる力

  •  SaaSやAIツールの制約を理解しながら、その中で最適な部分を想像し調整を行える実践的なスキル

 

しかし、このような人材の育成は容易ではありません。これまでの「コードを書くスキル」を中心とした教育やOJTでは、このような「理解し、調整し、活かす力」を育むことは難しいのが現実です。IT部門の育成方針も大きな転換を迫られています。例えば、AIの動作原理を理解する「AIリテラシー教育」に加え、ビジネス要件とシステム要件を橋渡しする「ビジネスアナリシス能力」、実際のSaaSやAIツールの管理画面を使った「実践型トレーニング」など、これまでにない複合的な学びの場が必要になるでしょう。

 

これからのIT部門は、もはや単なる「システムを作る部門」ではないと考えます。AIを含む多様なツール群を適切に活用し、システムを「合理的に進化させるためのビジネスコーディネーター」であるべきです。AIが作り出す無限の可能性を、現実の事業として着地させるためには、技術とビジネスの両方を理解し、つなぐ力が不可欠なのです。この変化を受け止め、次世代の人材育成に取り組むことが、今まさにIT・業務部門に求められているのです。

弊社は、本稿のようなインプット学習による意識改革からスタートし、過去プロジェクトの振り返りなどを通した机上でのアウトプット学習、伴走支援による実プロジェクトでの成功体験と内製を前提としたDX活動の定着スパイラルを伴走します。

 
 
 

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